うつ病の症状とは無縁と思っていた人がある日、突然、その症状を発症する
ことも近年では増加し、不安な思いで治心療内科を訪れる人も多いといいます。
〜うつ病の症状は早い段階に専門医による適切な治療を受ける事で、必ず完治する病気といわれています〜
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ストレス社会と言われて久しい現代、「こころの病」と言われる「うつ病症状」も増加傾向にあるようです。これは「うつ病性障害」といわれ、一般に「うつ」や「うつ病」といわれる、所謂「うつ病症状」を伴うものです。あなたや、あなたの周りにも几帳面で真面目、何事にも手抜きができず、自分に厳しい、といったタイプの人は見かけると思います。このタイプの人は「うつ病の症状」に陥りやすい傾向があり、注意が必要かもしれません。また、近年の「うつ病性障害」の増加は心療内科医の誤診の減少も、いち要因として挙げられるようです。
これまで「うつ病性障害」を始めとした「こころの病」は世間の偏見と相まって、「うつ病症状」を示しているなのに「うつ」ではない、と誤診されていたケースが多かったためと想像され、その為、「うつ病症状」を伴う患者数は実際より、かなり少なく見積もられいたものと考えられます。近年は、そういった病の切っ掛けが「神経伝達物質の働きの異変」である場合もあることがわかり、偏見や誤診も減ってきた印象があります。
私たちが生きて行く中で、勉強にしろ、仕事にしろ、上手くいかなかったり、失敗してしまうことは多々あるものです。それが原因で、落込んだり、後悔したりすることも当然あるはずなのです。こういう経験のある人は誰でも「うつ病症状」を引き起こす可能性を持っているといえ、これまで、あまり見られなかった主婦や子供、老人の「うつ病症状」も急速に増えてきている現状です。「うつ病性障害」は歴とした病気で、何も負い目を感じることはありません。寧ろ、このストレス社会で、少しも「心のバランス」を崩さずに生活できている人の方が稀なのですから。
誰にでもある「不安」や「落ち込み」から発症する「うつ病症状」。このHPでは、この疾患をどう理解するか、その原因や治療、対処法から予防法まで説明していきます。また、「うつ病症状」に悩む人と関わる家族や、その友人である人にとっては、「どんな態度で、どのような接し方が望まれるのか」の参考になると思います。わが国の「うつ病性障害」に対する認識は誤診が減ったとはいっても、まだまだで、その治療施設の整備やサポート体制も、十分とはいえません。しかし、一定の知識と経験を持った医師のもと、適切な治療を行えば「うつ病の症状」は完治するものです。「うつ」は、その人自身はおろか、周りを取り巻く人たちも「不幸」にしてしまうケースが多くあるのは悲しい事実です。「うつ病症状」をしっかりと「疾患」であると認識し、治療により、その症状が「回復」することを、もっと世間一般の人たちに認識してもらえることを切に願っています。
現代がストレス社会の名のもと、うつ病症状を発病しやすい土壌であることは上記でお話した通りです。改めて「こころの時代」と言わなければならない程、人の心は軽んじられ、ストレス社会を増長している印象すらあります。このような世情を反映し、うつ病性障害を発病し、その症状に苦しんでいる人は具体的には、どれ位いるのでしょうか。
WHO(World Health Organization)と呼ばれる、健康を基本的人権と捉え、その目的を達成するために設立された国連の専門機関がありますが、このWTOが「うつ病性障害」の発症率を国別に、まとめた調査データがあります。それによると、国により多少の誤差はありますが、概ね、国の人口に対し3%前後が「うつ病症状の発症者数」の平均になっています。日本で考えてみると、ざっと360万人の人が「うつ病性障害」であり、それだけの、人が今も、何らかの「うつ病的症状」を抱え、苦しんでいるのです。また、発展途上の国や、貧しい環境で過ごさなければならない国では、ほとんど「うつ病症状」は見られず、この疾患が見られるのは経済的にゆとりのある、都市化の進んだ国であるというのも特徴のひとつと言えます。
概ね、各国3%の人が「うつ病性障害」というのは想像よりも、かなり多い印象ですが、これは軽い症状の人も含んでいて、決して、重い症状の人ばかりというのではありません。が、ここで、問題なのが、実際に自分が「うつ病」だと認識し、専門的な治療を受けている人の少なさです。うつ病症状がある場合、最悪のケースとして、自から命を絶つことさえ想定しておかなければならないのが、この疾患です。ですから、その人の「うつ病症状」の重さを正確に判断し、適切な治療が必要なのは言うまでもないことなのですが、これが、ほとんど行われていないというのは憂慮すべき現実といわなければなりません。治療を受けている人の中でも圧倒的に多いのは、一般医の治療を受けいる人で、本当に必要な精神医学医による治療を受けている人は、圧倒的な少数派なのです。
自分の気持ちの落ち込みが「うつ病的症状」かどうか、はっきりしない場合、病院を訪れる人の、ほとんどが受診するのが、専門の精神科・心療内科ではなく、80%くらいの人が内科を訪れるというデータがあります。当然のことですが、専門医以外の医師が「うつ病性障害」を診察する時、専門医と同じくらい、的確に病状を判断できるかといえば、そうとはいえません。専門医であれば、すぐに「うつ病症状」と判断できるところを、別の疾患と診察したり、酷い時には「特に治療の必要なし」と判断されてしまうこともあります。ある統計によれば、正確に「うつ病」と診断されるのは全体の25%、別の疾患と判断されるケースが25%、「治療の必要なし」との診断は30%もあるといいます。やはり、気持ちの落ち込みなどの「うつ病的症状」、「こころの問題」については専門の精神科・心療内科の診察を受けた方がいいということでしょう。
うつ病の症状は精神病とは区別され、「気分障害」として扱われる傾向にあります。「悲しい」や「寂しい」といった感情が、うつ状態をともなって、日常生活に支障を来すほど増幅されてしまう「感情の病気」です。「うつ病症状」では自責の念に駆られやすく、自己批判や自己否定を繰り返し、「自分には何も価値がない」「生きている意味がない」などの思いに行き着き、耐えられない気分になります。感情面だけでなく、ストレスで自律神経が不安定になることから、身体的な病状も現れるのです。
うつ病性障害の定義は、さまざまな概念や研究からアプローチが試みられていますが、やはり「うつ病症状」そのものが「複雑な感情変化の総体」ともいえ、なかなか、簡潔に、また、分かり易い定義となると難しい部分があるようです。
また、うつ病性障害の前提となる「うつ状態」の定義については「悲哀感情を基調とし、これに不安感、焦燥感、劣等感、厭世感などが加わり、自ら命を絶つ傾向もしばしばみられ、行動や思考が抑制される状態、また、重要な点はこれらの精神症状に加え、身体的症状を訴える事」と定義できます。
うつ病性障害では様々な症状が現れますが、大きく分けると「感情の症状」「意欲の症状」「思考の症状」「身体の症状」の4つの症状に分類されます。この4つの症状のうち、どの「うつ病症状」が、どれくらいの比率で現れるかは、個人差があるのですが、複合的に「うつ病性障害」を形成した、これらの症状が数週間から数ヶ月の間続いた後、しばらく、症候状態を保ち、その後、再び同様の「うつ病性障害」の症状を示します。このサイクルを長い期間、繰り返しながら、うつ病症状は徐々に深刻なものへと推移していきます。繰り返しの発病では、その切っ掛けになるような出来事が、大抵、あります。しかし、それが「常に発病の切っ掛け」であることはなく、「定期的な繰り返し」を、その「切っ掛け」だけから抑えることは難しいようです。
特に悲しい出来事に出くわした訳でもないのに、気分が落込み、感情の低下がみられるのが「感情の症状」の「うつ」的特長です。自分でも不思議なくらい「不安」「焦燥」「憂鬱」といった感情に取り留めもなく縛られてしまい、意気消沈し、何をするにも自信が持てない気持ちに追い詰められてしまいます。自信の喪失は、他人や社会と積極的にコミュニケーションを取ろうとする意欲を低下させ、気持ちを内に閉じこめる傾向にあります。また、他人や社会と上手く付き合えない自分が、ますます、みじめに感じ、自己嫌悪、抑うつの傾向は、より強くなっていくという悪循環が生まれてしまいます。このうつ病症状は1日の中では、朝が最も感情の落ち込みが強く、夕方に向けて少しずつ気持ちは軽くなる、と訴えるケースが多く、これを「日内変動」といいます。
気力が低下し、意欲や根気といった「こころの力」のようなものが沸いてこなくなってしまうのが「意欲の症状」です。「何もしたくない」といった意識が強く、学生なら勉強、社会人なら仕事、主婦なら家事といった日常、行わなければならないことが、どうしても出来なくなります、また、無理をして勉強や仕事を行ったとしても、なかなか、その作業は進まず、効率も悪くなり、そのことで尚の事、疲弊し、気力は低下してしまいます。「何もしたくない」のは決して怠け心からくる訳ではなく、「うつ病症状」の特徴なのですが、これは、周囲の人たちには、どうしても理解されづらく、その「分かってもらえない」「自分が悪いんだ」といった思いが「うつ」を持つ人の悩みを、さらに大きくしてしまいます。この「意識の症状」が強くなると、日常の歯磨きや着替えといった身だしなみも、食事を摂ったり、会話をしたりといった行為すら、出来なくなり、生活していく上で大きな負担となることもあります。
考えをまとめようとすればするほど、混乱してしまい、ひとつのことに集中できないといった思考の抑制を起してしまうのが、「うつ病」における「思考の症状」です。また、思考が常にネガティブな方向に向かってしまい、思考すればするだけ、自分を責めたり、おとしめたりする意識が強くなってしまいます。「自分が悪い」「能力がない」「上手くいかない」などの考えが繰り返されると、最終的には「自ら命を絶つしかない」といった極論に辿り着いてしまうのが、こういったうつ病症状の怖ろしいところです。借金苦などで自ら命を絶ってしまうケースに隠れ、あまり問題視されることはありませんが、年間で自ら命を絶つ人の数は「うつ病性障害」を患っている人の方が遥かに多いのです。
周囲の人たちに、特に注意してほしいのは、「うつ病発症直後」と「治療の末、うつ病症状が治まりかけている」時期です。この時期に、「最悪のケース」は多く起きる傾向にあり、家族や友人といった周囲の人たちには、その接し方、対応に慎重さが求められ、ここで誤ったケアをしてしまうと、後になっては取り返しの付かない事態を引き起こしてしまいます。
うつ病症状は精神的な症状ばかりでなく、身体にも様々な影響をあたえます。変調を引き起こす原因として考えられるのが自律神経の問題です。自律神経とは内臓、血管などの働きをコントロールし、内分泌や免疫にも関わる、体内環境を整える神経です。私たちは普段、これを意識して使っているわけではなく、自然に汗をかいたり、食べ物を消化したりといったことで、無意識に機能させています。自律神経には起きている時、緊張している時に働く「交感神経」と就寝時やリラックスしている時に働く「副交感神経」の2つがあります。「うつ病」によってストレスが掛ると、この交感神経と副交感神経の切り替えがスムーズに行えなくなり、所謂、自律神経失調症の状態になって、身体に影響が現れるのです。肩こりや頭痛、手足の震え、冷え性などはその典型でしょう。うつ病症状が長びくと、一時的な胸痛、便秘、食欲減退などを起し、そのつもりはなくても、ダイエットをしたように痩せてしまい、体力も低下してしまいます。同時に、夜、ぐっすりと眠れなかったり、夜、何度も目が覚めてしまう、といった「睡眠障害」を引き起こす事もあります。
先述した通り、うつ病症状は「複雑な感情変化の総体」といえ、その為、「原因」と一言でいっても、その本質は多種多様であり、その全てを明確に把握するのは容易なことではありません。うつ病症状の原因分類として、有名なものには「キール・ホルツの分類」があります。患者さんの「うつ病症状」の傾向から、そのタイプを示し、治療方針などを説明するときに使われることがあります。
キール・ホルツは「うつ病性障害」の病型を「身体因性」「内因性」「心因性」の3つに分類し、それぞれの「うつ」の原因の違いを示しています。また、これらの原因から「うつ病症状」を発症する身体的な基盤として、近年、「脳」及び「脳細胞」の機能障害が深く関わっているのではないか、という仮説のもと、そのメカニズムを解明するための研究も盛んに行われています。
うつ病性障害の原因が主に身体の病気が原因と考えられる場合、「身体因性うつ病」ということになります。さらに「身体因性うつ病」は2つに細分化でき、脳腫瘍や脳の損傷などによる障害といった、脳の器質的要因が原因となるものを「器質性うつ病」、腎臓の病気や血液障害、感染症などで、うつ病症状に陥った場合は、それが症候的な切っ掛けということで「症候性うつ病」と分類されます。
うつ病性障害の中心となる、双極性の「躁うつ病」と、単極性の「うつ病」の原因範囲を含むのが「内因性うつ病」となっています。「躁うつ病」とは、これまで説明してきたような「うつ状態」と、それとは正反対の「躁状態」が二面性を持って、自分でもコントロールできない形で極端に現れます。「躁状態」では、訳もなく気分が高揚し、他人から見て異常と感じられるほどの充実感に満たされて、「自分が世界の中心だ」といった「うつ病症状」の時には、想像できない態度をとってしまいます。また、中高年に見られる遅発性うつ病も「内因性」に含まれます。遅発性うつ病には「退行期うつ病」「更年期うつ病」「初老期うつ病」などに分けられます。「初老期のうつ」は社会の高齢化や地域性の希薄化、定年後の「燃え尽き症候群」なども問題と相まって、社会問題のひとつとしてメディアなどでも頻繁に取り上げられていますから、聞き覚えのある方も多いかもしれません。
身体的に病気が原因となる「身体因性うつ病」に対し、精神状態やこころの問題が原因となって起こる「うつ」を「心因性うつ病」といいます。「心因性うつ病」はさらに「神経症性うつ病」「反応性うつ病」「疲憊性うつ病」の3つに細分化できます。
「神経症性うつ病」は神経症としての「うつ病」で「抑うつ神経症」を指します。「抑うつ神経症」は、最近では「軽うつ」と言われることもあり、気持ちが落込んだり、悲観的になったりの「抑うつ状態」と、気力の低下や注意力の欠如といった「思考と行動の抑制」といった症状を伴います。
人生で何度か訪れるような、大きな精神的ショック、その体験や記憶によって引き起こされるのが「「反応性うつ病」」です。喪失体験や離別体験は、特に私たちの心に大きなダメージを与える事があります。その中でも「うつ病症状」の発症に最も陥りやすいのが家族や友人との「死別体験」でしょう。特に突然、訪れる死別の悲しみは、長い期間に亘って癒されることがなく、「うつ」を招いてします可能性も高くなります。その他にも、離婚によって子供と離れ離れになってしまった場合や、大恋愛の末の失恋、ガンなどの深刻な病の告知、就職活動や受験の失敗、リストラなども切っ掛けになります。また、「ペットロス症候群」といわれる、最愛のペットとの死別による悲哀体験でも「反応性うつ病」を発症する人が増えているようです。
「疲憊」という言葉はあまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、「動けないほどに疲れること。疲れ弱ること。」という意味を持っています。過度の緊張、プレッシャー、ストレスを長時間、受け続けるような環境に置かれると、「疲憊性うつ病」を発症する可能性が出てきます。サラリーマンの昇進や、学生では受験などを契機に「うつ」になる場合が、これにあたるでしょう。サラリーマンが昇進し、より重要なポストにつくと、これまでとは、仕事量も違ってきますし、指示ひとつ出すにも、大きな責任が伴います。この時、「責任感が強い」「生真面目」「失敗を恐れる」といった性格の人は、毎日が緊張と不安の連続となり、心に大きな負担を強いる結果になります。また、上記のような性格の人が受験勉強で、親や学校から期待を受ける中、なかなか成績が上がらない状況に置かれてしまうと「志望校に合格できない」不安が大きくなり、精神的にまいってしまいます。
「責任感が強い」「生真面目」「失敗を恐れる」といった性格は、もともと、「うつ病症状を引き起こしやすい性格」といえますから、そのタイプの人にとって、「どういった生活環境で暮らし、いかに自分を追い込まない生き方をするか」、は人生にとって、とても重要なテーマになってきます。どれだけ厳しい受験戦争に打ち勝ち、良い企業に就職しても、そこでの仕事に押しつぶされ、昇進にだけ躍起になる人間関係に疲れ果ててしまっては、「うつ」が、その人を放ってはおきません。地位やお金、物質的に不自由のない生活も大切ですが、「うつ病症状を引き起こしやすい性格」の人にとっては、「こころに余裕を持てる環境で暮らす」ことを最優先に考えなければなりません。「うつ病症状」に苦しむようなことになってしまってから、そのことに気づくのは、あまりに遅すぎると言えなくもありませんから。
うつ病症状の発症メカニズムは、さまざまな要因の連鎖や干渉が絡みあって起きていると考えられていて、一貫したメカニズムの解明には至っていない現状です。ただ、おそらくは、脳、及び、その「間脳」に大きなヒントがあるのではないかと推測され、たくさんの仮説が立てられ、現在も、その立証のため、様々な研究が試みられています。ここでは、「脳の機能障害による神経伝達物質の低下」についての仮説について触れようと思いますが、これも100%のメカニズム説明というのではありません。
多くの問題点や矛盾点、新たに立証しなければならないグレーゾーンも含んでいる「うつ病症状の仮説」なのですが、実は、うつ治療に使われる「抗うつ薬」は、こういった仮説に基づいた研究の結果、開発されています。うつ病症状に高い改善効果の見られる「抗うつ薬」は、逆説的に「仮説の立証」になるともいえますが、実際の「抗うつ薬」の効果と、「仮説に基ずくメカニズム」の因果関係は理論的に100%説明するには至っていません。今後は十分な「うつ」の改善データから仮説立証に必要な裏づけと、その研究、検証が課題になってくるでしょう。
うつ病症状に深い関わりがあると考えられる「脳」は150億ともいわれる脳細胞によって構成されていますが、その細胞間で瞬時に情報をやり取りすることで、私たち人間の高度が精神機能は保たれています。この「情報の伝達」の役割をになっているのが「神経伝達物質」といわれる脳内物質です。
感情のコントロールの中心を成し、睡眠誘導に関与する「メラトニン」生成に欠かせない「セロトニン」や、人の快楽やホルモン調整に必要な「ドーパミン」、緊張下における血圧の上昇、消化器官の機能低下に関わる「アドレナリン」、人の集中力、記憶力、積極性に関わり、緊急反応として交感神経を刺激、血圧や心拍数を高める作用のある「ノルアドレナリン」などのカテコールアミンが「神経伝達物質」です。
うつ病症状を引き起こす身体的な基盤として、これらの「神経伝達物質」が脳内で減少することで、「うつ」になりやすい精神状態が形成されてしまうのではないか、と考えられています。そこに強いストレスなどの負荷が掛ると、心はそれに抵抗するだけの力がなく、うつ病症状の発症に繋がってしまうということです。
脳神経細胞(ニューロン)の接合部分はシナプスと言われ、ここから神経細胞間の情報が伝達される仕組みになっています。情報を伝える側のシナプスを「シナプス前細胞」、伝えられる側を「シナプス後細胞」といいますが、「内因性うつ病」では、情報を受ける側の「シナプス後細胞」がセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の情報を十分に受け取れない状態、つまり、感受性の低下を起こし、うつ病症状を起すと考えられています。
また、「心因性うつ病」の場合は、ノルアドレナリンやセロトニンが継続的なストレスや過労によって、大量に、長期間、放出された結果、それを放出する側の「シナプス前細胞」の、神経伝達物質が枯渇してしまい、感情のコントロールなどが上手くいかず、うつ病症状に至るのではないかと考えられています。「シナプス前細胞」「シナプス後細胞」の違いはありますが、「内因性うつ病」、「心因性うつ病」どちらの場合も、脳神経細胞間の情報伝達の阻害が原因ではないか、と推測されている部分で共通しています。
うつ病症状の改善を図る「抗うつ薬」というのは、上記のようなシナプスと神経伝達物質の関係を踏まえて、低下した「シナプス前細胞」のシグナル伝達能力を、もとに近い状態に戻してあげるものです。具体的には「シナプス前部」から放出された神経伝達物質が、「シナプス後部の受容体」に伝わった後、シナプス間の「シナプス間隙」から、再び、「シナプス前部」へ再吸収されるのを阻害することで、シナプス間隙の神経伝達物質の量を増加させ、枯渇ぎみのシナプス前細胞の働きを補完する、といった仕組みです。
また、「内因性うつ病」の身体的基盤と考えられる、「シナプス後細胞」の感受性の低下を補うような、神経伝達物質の刺激に高い感受性を示させることを目的にした抗うつ薬も開発されています。
私たち人間の脳メカニズムというのは、時に「宇宙」に例えられる程、複雑な広がりをみせ、その全てを把握するのは、現代の脳科学においても不可能であり、上述のうつ病症状と「神経伝達物質やシナプスの関係」についても仮説の域を脱していません。しかし、抗うつ薬が、実際に高い治療効果を示すことからも、うつ病症状が脳内の何らかの異変によって引き起こされていることは疑いようのない事実といっていいと思います。
うつ病症状は、しばしば、抽象的ではありますが「こころのエネルギー低下」といった表現で説明がされます。「うつ」に悩む人を持つ家族の方達は、これまでと、まったく違ってしまった当人を目の当たりにして「脳が壊れてしまって、もう元へは戻れないのではないか」と恐怖に近いような不安に苦しむこともあるといいます。
しかし、うつ病症状というのは「こころのエネルギーが低下している」だけと聞けば安心するのではないでしょうか。そうなのです。うつ病症状とは、何も「脳が壊れてしまってる」といった大げさなことではなく、こころのエネルギーが何かの拍子に、一時的に低下しているだけの状態と考えて下さい。完治のためには、簡単にいってしまえば、この低下したエネルギーを、もう一度、増やしてやればいいのです。
「車でいえば、バッテリーが上がってしまっているような状態で、充電することで、その問題は解決します。」と聞けば、さらに、安心してもらえるでしょう。エンジンも車本体も壊れていません。しっかりと、やり方を間違えずに充電してやれば、元通り、軽快に走り出してくれるはずです。ただ、間違った充電方法を取ってしまったり、車を叩いてみたり、闇雲にアクセルを吹かしてみても、エンジンは掛からず、それは、ますます、バッテリー容量は低下させることになります。
では、うつ病症状における充電とはなんでしょうか。それは十分な「療養」と「こころの開放」です。ゆっくりと「落ち着く」や「楽しい」といった感情に浸ることで、こころは少しずつ、生きていくために必要なエネルギーを充電していきます。これまで、無理にエネルギーを使い過ぎてしまったのです。
「こんな風に、うつ病症状を起してしまって、この先、どうやって生きていったらいいのか」と考えるのは良くありませんし、家族が、そういったことを問いかけるもの充電の妨げになります。そういった問題は、しっかりと充電が完了してから考えればいいことです。充電前に、どんなに焦ってみても、全ては回復を遅らせる逆効果にしかなりません。しっかりと充電できる環境を作るには本人だけが努力しても、どうしようもない問題もあります。本人と家族、友人達が協力して、そういった環境を作り上げていくことが大切になります。うつ病症状から脱するためには、それを取り巻く家族や友人の理解と強力が欠かせないという訳です。
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